• この建物では、1階と2階、建物のウチとソトなどが行き止まりのないメビウスの輪のように絡み合い、どこまでもつながっていくような感覚を表現したいと考えました。住まいとは、くつろげる 居場所を形にするものですが、居場所そのものだけでなく、空間を移動する通路の途中や、移動の瞬間に垣間見えるものに気持ちよさを感じたり、何か刺激や発見があったり、そんな感覚の積み重ねを大事にしたいと思っています。空間の隙間を抜けていく光や風、風景や動線に触発されることで、居場所自体の心地よさがさらに増幅する。そんな流れが、ここで暮らす人の生活のリズムや楽しさを生み出してくれるのではないか。そうした思いから「旅する家」は生まれました。
• 人は、仕事場や学校など 、ソトでさまざまな刺激を受け、そのまま持ち帰ってきます。わが家に戻ったとき、気持ちをスッと切り替えられるような、清々しい空気が身を包んでくれる、そんな感覚を大事にしたい。中庭の緑に心が和んだり、やわらかな灯りの中で笑う家族の様子をルーフデッキから客観的に眺めたり、その風景に家族の温もりや生活をともに紡ぐ幸せを改めて感じたり。
• さまざまな刺激を受けながら、まるで住まいの中を旅するような、大きなくつろぎに包まれる。家族の関係がより深まり、楽しさも膨らむ。それらが心を満たす相乗効果となる。それが、「旅する家」の もたらす心地よさなのです。

視線が空に抜け、気持ちのいい開放感に包まれるリビング。中庭から届く自然の光や風が、くつろぎの時間を演出。ルーフデッキとのつながりが、面積以上の広さを感じさせます。

• 最近は、何事も便利さをよしとする風潮があります。建築物でも、暮らし心地を高める上で機能的な家事動線やソーニングは必要不可欠ですが、それがすべてではないと思っています。設計上のストーリーがあれば、あえて距離を取る楽しさや不便さは遊び心となり、暮らしに刺激や発見、リズムを与えてくれる。
• 「旅する家」は中庭を中心に回遊できるよう動線を配し、少し大回りをしたり、 立ち止まる「間」を設けたりなど、あえて距離を取ることで不便さと心地よさの臨界点を求めるような間取りとなっています。
• 空間の開放感、程よい距離感、 それらが、本当に心地よいと感じる安らぎの形や新しい価値を育くむ。そんな暮らしが広がる住まいです。

中庭を取り込むことで、全体が一つに つながり、のびやかなくつろぎを生み出す間取り。