• 玄関から階段、ダイニング、キッチンへと南北に広がる長方形の箱に、90度振った形で2階の箱を東西に交差させた「クロススクエア」。2つの箱を重ねることで生まれた空間が、この住まいでもっとも居心地のいいリビングです。両サイドが庭に面しているので、視線が多方向に抜け、室内にいながらソトのようなウチのような不思議な心地よさに包まれます。箱をクロスさせることで生まれた偶然の隙間の楽しさと、ウチとソトとをつなぐ微妙な距離感。その感覚こそが、この住まいの心地よさの核となるものだと考えています。
• 外観は装飾を削ぎ落とし、1階の箱の上に長方形の黒い箱を無造作にポンとのせ、それがそのまま建物の形になったような、軽さとリズム感のよさを表現しました。人には、本能的に居心地のいい場所を探し出そうとする感覚が備わっています。たとえば森の中でひと休みするのであれば、座りやすそうな石や切り株を探したり、木洩れ陽が差し込む場所やせせらぎの傍を選ぶでしょう。
• 人混みの中であれば、少しでも人との距離を保てる路地を探すなど、無意識のうちに人との距離感、自然との距離感を考えながら落ち着ける場所を求めるもの。住まいの中にも、そんな居場所をつくりたい、という想いが発想の原点。思わずそこで羽を休ませたくなる、大きな安堵に満ちた空間のある住まいです。

中庭を眺めながら気持ちよく過ごせる、明るいダイニングキッチン。回遊できるアイランド型で、家族の会話も弾みます。窓越しにリビングと、反対側の庭まで視線が届き、空間の広がりを感じさせます。

• エントランスから建物の内部に入ると、南北に広がる空間につながります。その中心部に配した階段は、上下階を効率よく結ぶのはもちろん、リビングに向かうメインの動線と洗面や浴室につながる家事動線を分け、さりげなく機能性を高めています。1階は水廻りなど生活機能にかかわる空間を配置し、2階は寝室や書斎などのプライベートゾーン。上下の箱を重ねることで生まれた隙間は、パブリックスペースとしてリビングに。暮らしやすさや使い勝手のよさを考慮した無駄のないゾーニングを実現しました。
• また、面積以上の広さや心地よさをもたらす工夫も随所に。天井を白く仕上げた端正なリビングは、視線の先にいつも庭の緑が飛び込み、ソトとのつながりや空間の広がりを実感できます。
• 床を下げ、庭のラインに揃えたことでも広がり感をプラス。また、リビングにつながる庇は、強い日差しを遮るだけでなく、内部の天井の延長線上にあることで、空間の広がりとウチとソトの中間領域の心地よさを演出しています。

箱と箱の重なりから生まれた、空と緑を間近に感じられる中庭。周囲の喧騒を気にすることなくくつろげる場所が、心豊かで健康な暮らしを支えます。